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NAMM Show

2005-03-01

少し前のことになるのだけれど,1月の末にロサンゼルスはアナハイム・コンベンションセンターにおいて,楽器業界における最大規模の国際展示会のひとつである "NAMM Show" が開催されている。

http://www.thenammshow.com/

展示内容に関しては,ニュースサイト Harmony-Central によるレポートが充実していて参考になる。

http://namm.harmony-central.com/WNAMM05/

国内のサイトでは,オンラインショップ Rock oN によるレポートが最も充実しているのではないかと思う。

http://www.miroc.co.jp/ROC/showrepf_namm2005.html


今回の NAMM Show は,個人的にはあまり目を引くものが無かった。敢えて何かを挙げるとすれば, KORG の "OASYS" ぐらいかと思う。

http://www.korg.co.jp/Product/Synthesizer/OASYS/

"OASYS" は,いわゆる「ミュージック・ワークステーション」の一種だ。音楽制作に必要とされる一通りの要素が一台のシンセの中に集約されている。ただ,この "OASYS" の場合は,その機能の多彩さが尋常ではなく,まさに KORG 社の全技術がこの一台に集結されたかのごとき内容となっている。一部の情報によれば,内部には Linux を基盤としたシステムが搭載されているとのことで,シンセ云々というよりかは,もはや PC に近いハードウェア構成となっている模様だ。

http://www.createdigitalmusic.com/index.php?option=com_conte...

もちろん,その性能の高さと同様に,価格も非常に高いものとなっている。ニュースサイトの情報によれば,販売価格は $8500 (約85万円)ほどになると言われている。

PC を利用した廉価な音楽制作環境が一般的なものとなりつつある今の時代にあって,この OASYS の持つコンセプトは非常に異質なものであると言うことができる。そのためか,一部のハイエンド志向のユーザからはそれなりの注目を集めつつも,他方では冷ややかな目で受け入れられているというのが現状の評価であるようだ。ともかく,この OASYS が,はなから裕福な消費者だけを狙った商品であることには間違いないだろうと思う。

ちなみに, "OASYS" と名付けられたワークステーションが最初に登場したのは 1994 年の NAMM Show のことであるようだ。

http://www.vanille.de/extras/oasys/oasys.html

その後,この製品は何故かお蔵入りとなり,いつか復活するという噂だけが残り続けることになる。そして,ようやく今回の NAMM Show において,正式な製品として発表するに至ったという顛末であるようだ。10年をかけた悲願が,今ここにようやく達成されたということなのかと思う。


NAMM Show に出展された「変りダネ」系の製品に関しては,毎年恒例となっている Barry Wood 氏の "NAMM Oddities" のレポートが面白い。

http://www.otheroom.com/namm/

Togaman の "GuitarViol" などは,まず見た目で興味を引かれる珍楽器だ。一体どんな音がするのだろうかと思う。どこにも動画が無いのが残念でならない。

http://www.otheroom.com/namm/Inst.htm


Test Driven Development

2005-03-02

先日, "Games from Within" の Noel Llopis 氏が, "Stepping Through the Looking Glass: Test-Driven Game Development" と題して,ゲーム開発におけるテスト駆動開発の実践の手引きを記していた。

http://www.gamesfromwithin.com/articles/0502/000073.html

http://www.gamesfromwithin.com/articles/0502/000075.html

Llopis 氏の記事は以前から参考にすることが多い。それらの内容を通して見てみると,氏が XP やアジャイルの考え方を好んで取り入れていることは明らかであると感じられる。件の記事においてテスト駆動開発の手法を熱心に啓蒙しているのも,そのような嗜好によるものなのだろうと思う。

テストコードに対する自分の考え方は,以前からあまり変化していない。利点は確かに認められるものの,それに釣り合うだけのコストの範囲内でテストを完備することが難しい。また,テストを行うために必要とされる高いモジュール性を確立することが難しい。数学的な問題に基づいた仕様を厳密にテストすることが難しい。十分な量のテストコードが率先して用意されるような状況にまで士気を高めることが難しい,等々……。

取り敢えず現状では,モジュール性の極めて高いクラスに関してのみテストコードを用意するようにしている。テスト駆動開発などは遥か彼方の話だ。ゆえに XP の実践なども到底適わないだろうと考えている。テスト・ファーストのコンセプトに代表されるような「極端」なまでのテスト運用こそが XP の骨格であると捉えているためだ。

しかし,このように否定的な結論に至っているからこそ,テスト駆動開発が成功した例というものを実際に見てみたいと常々考えている。自分は決してテスト駆動開発のコンセプトを嫌っているわけではない。自分達が取り組んでいるような種類の問題に対してそれを適用することが難しいと考えているからこそ敢えて避けているのであって,むしろ実践できるものなら実践してみたいというのが本音だ。

そのような状況にあって, Llopis 氏の記事は当然ながら目を引くものであったのだけれど,残念ながら,その内容から実践の感覚を掴むことはできなかったというのが率直な感想だ。どうにもいまいち現実感が伝わってこない。また,それ以前の問題として,氏が拠り所としているテスト駆動開発の経験は,本格的な規模のプロジェクトにおけるものであるのだろうかという疑問も残されている。


その昔,自分の履修していた講義の担当教授が「昆虫基底クラスを継承してカブトムシクラスを導出する……というような非現実的な例から,実際のオブジェクト指向を理解することができるはずがない」というような批評を展開していたことを,ふと思い出す。分かりやすく抽象的な暗喩(メタファー)を用いるつもりが,現実から著しく離れてしまったがために意味をなさなくなってしまうことは,往々にして生じるものであると感じる。


x0xb0x

2005-03-03

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MIT Media Lab の Limor Fried 氏は,本物の技術力と発想力を兼ね備えた女性ギークの一人であると思う。

http://www.ladyada.net/

http://www.ladyada.net/bio/index.html

氏はこれまでに,自らの持つ工作技術を活かして,様々な作品を創り出している。過去に CNET や New York Times 等のメディアにおいて取り上げられたこともあるようだ。

http://www.ladyada.net/make/index.html

http://www.nytimes.com/2005/02/03/technology/circuits/03tinn...

そんな氏の最新作品は, "x0xb0x" と名付けられた自家製シンセサイザーだ。

http://www.ladyada.net/make/x0xb0x/

"x0xb0x" は,テクノミュージックでは「超」定番のベースラインシンセ "TB-303" のクローンとして設計されたシンセサイザーだ。このように TB-303 を模倣したシンセサイザー ― いわゆる「TBクローン」は,過去にも数多く存在している。しかし,それら世に溢れるTBクローンと,この "x0xb0x" が決定的に異なっている点は,これがオリジナルの TB-303 の電子回路を完全に模倣したものであるという点だ。

アナログシンセサイザーは,たとえ同じ発音方式を利用していても,オシレーター(発振器)やフィルターの持つ特性の微妙な違いから,それぞれ異なった音色を生み出すようになっている。多くのTBクローンに関しても,基本的な発音方式ではオリジナルを模倣しているにも係わらず,特性の微妙な違いから異なった音色になってしまっていることが多い。実際に "Samples" のページで音の聴き比べを行ってみると,多くのTBクローンがオリジナルとは異なった音色を持っていることが分かるのではないかと思う。

http://www.ladyada.net/make/x0xb0x/samples.html

もちろん, x0xb0x の音色はオリジナルのTBに限りなく近い。本格的なリバース・エンジニアリングを行い,トランジスターの一つ一つに至るまでオリジナルの部品を突き止めたというのだから,その情熱には本当に敬服する。

こうして設計された x0xb0x は,電子工作キットとしてパッケージ化され,一般向けに販売を行う予定であると告知されている。値段は $300 ほどであり,まずは 100 台のキットを販売する予定であるようだ。


MFB-SYNTH LITE II

2005-03-07

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最近は家でゆったりとくつろいでいる暇もあまり無いのだけれど,週末など普段よりも家に長く居られるときには,少し前に購入した MFB-SYNTH LITE II をいじって遊んでいることが多い。

MFB-SYNTH LITE II は,ドイツは MFB 社から販売されているモノフォニックシンセサイザーだ。 MFB 社は 80 年代からドラムマシンなどを開発していた老舗であるらしいのだけれど,現在に至るまで知名度はほとんど得ていないという非常に堅気なメーカーだ。近年は "MFB-SYNTH" シリーズや "MFB-KULT" 等を始めとするユニークなコンセプトの製品を世に送り出しており,個人的に目の離せない注目メーカーのひとつとなっている。

http://www.mfberlin.de/Wir_uber_uns/We_about_us/we_about_us....

MFB 社の製品は,国内では福産起業が販売を行っている。海外のマニアックな製品の代理販売で知られる企業だ。

http://www5f.biglobe.ne.jp/~fukusan/products/mfb/MFB-index.h...

上の公式ページでは本体価格 46,800 円となっているものの,実際には税込みで 37,000 円前後が相場となっているようだ。この価格設定が妥当であるかどうかは評価の難しいところではあるのだけれど,個人的には非常に理性の感じられる価格であると思われる。

MFB-SYNTH LITE II の最大の特徴は,なんと言ってもその小ささにある。寸法は 17.8cm x 12.8cm であり,DVDのケースよりも一回り小さい程度の大きさとなっている。その上面には15個のノブが所狭しと並べられており,さながらMIDIコントローラーのような様相だ。そもそもこの小ささに惹かれて,半ば衝動的に購入したのだけれど,届いた箱を開けてみてから,その小ささに改めて驚かされることになった。

小さいながらも操作子の数は充実しており,殆どのパラメーターを直接に操作することができるようになっている。ノブを回してナンボのアナログ(VA)シンセにとって,これは非常に魅力的な要素であると感じられる。機能的に見れば決して真新しいものではないものの,要素の洗練と凝縮という面から見て,この MFB-SYNTH LITE II は非常に特徴的な製品であると評価することができると思う。


Banker's Rounding

2005-03-08

先日,ブログ ".NET Undocumented" の Wesner Moise 氏が "Floating Point Arithmetics" と題された記事において,浮動小数点演算に関する知識をクイズ形式で披露していた。

http://wesnerm.blogs.com/net_undocumented/2005/01/floating_p...

http://wesnerm.blogs.com/net_undocumented/2005/01/floating_p...

個人的に面白かったのは,1問目の「"Math.Round(2.5) = 3" は成り立つか否か?」という問題だ。これは .NET Framework ライブラリにおいては成り立たない。 "Math.Round(2.5)" は "2" を返すためだ。

この意外な答(少なくとも自分にとっては意外だった)は, .NET Framework ライブラリの Round 関数が "Banker's Rounding" ― 「銀行型丸め」を採用していることによるものだ。「銀行型丸め」とは,基本的には最も近い整数値に丸めつつも,上下の整数が等しく近い場合には偶数となる方を優先するという方式だ。金融方面で主に用いられている方式であることから,このような名前が付けられているらしい。

小数点値の丸めと言うと,いわゆる「四捨五入」のように,中間値は繰り上げるのが普通であるように感じられる。例えばCの標準数学ライブラリ (math.h) においても, round 関数は「0から離れる方向に丸める」と定義されている (ISO/IEC C99). また,C以外のプログラミング言語処理系も,この方式に準じていることが多いようだ。

しかし,例えば浮動小数点演算の標準規格である IEEE 754 においては,丸め操作の標準方式として「偶数への丸め」が採用されている。この辺りの理由に関しては, David Goldberg 氏の "What Every Computer Scientist Should Know About Floating-Point Arithmetic" に詳しく解説されている(185 ページの "Exactly Rounded Operations" の辺り)。

http://www.physics.ohio-state.edu/~dws/grouplinks/floating_p...

「銀行型」を利用する動機としては,「四捨五入」において生じてしまう「偏り」を防ぐためという目的が挙げられる。「四捨五入」のように一方向への丸めを行ってしまうと,計算を重ねるにつれ一方向への偏りが累積されてしまう。そもそも金融方面において「銀行型」が利用されているのも,この「偏り」を防ぐことが目的であるようだ。例えば,以下の式は「四捨五入」では "4" になってしまうものの,「銀行型」ならば "2" を保つことができる。

round( round( round( round( 2.0 + 0.5 ) - 0.5 ) + 0.5 ) - 0.5 )

Colorization Using Optimization

2005-03-09

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個人的な印象なのだけれど,イスラエルの大学は画像処理の研究に強いという印象がある。例えば,今日 "near near future" において紹介されていたイスラエルはヘブライ大学エルサレム校 (Hebrew University of Jerusalem) の Anat Levin 氏らによる論文 "Colorization Using Optimization" などは,非常に面白くかつユニークな研究であり,前述のような印象を裏付けるものであると感じられた。

http://www.cs.huji.ac.il/~yweiss/Colorization/

http://www.we-make-money-not-art.com/archives/004817.php

氏らの研究の内容は,上のページを見れば一目で理解することができると思う。ここで用いられている単語 "colorization" ― 「カラー化」とは,白黒画像に対して色彩を与える工程のことを指す。氏らの研究は,これまで非常に高コストであったカラー化の工程を,圧倒的な低コストで実現するという内容のものだ。

氏らの技術は,自然画像において一般に見られる「輝度の変化の少ない領域は色彩の変化も少ない」という仮定に基づいている。この仮定は常に成り立つとは限らないものの,ほとんどの場合において,輝度が平坦な領域は色彩も平坦であり,輝度が輪郭を成している部分は色彩も輪郭を成しているとみることができる。氏らはこのような仮定が成り立っていることを評価するための手段として「輝度の変化と色彩の変化の対応量」を測定する関数を導き出し,この関数をコスト関数として最小化を行う最適化問題を解くことによって,半自動的なカラー化処理を実現している。

氏らの技術の面白いところは,その原理は決して難しいものではないという点だ。氏らが行った最大の貢献は,カラー化という画像処理をありふれた最適化問題に置き換えた点であるとみることができる。最適化問題の解法については,既存の成熟された技術をそのまま応用することができる。論文を覗いてみれば,数式はたったの4つしか用いられていないうえに,実装も疎行列を MATLAB に突っ込んで解かせるだけという非常に簡素なものであることが分かるはずだ。たったそれだけの仕組みでも,上のページにあるような印象的な結果を提示することができているというのは,非常に面白いことであると思う。

白黒画像においては元画像の色彩情報が完全に失われてしまっている以上,どうやっても元画像と同一の品質を復元することは不可能だ。しかし,カラー化という工程においては,要は「人間の目に自然に映る画像」を生成することが重要であり,それが元画像と同一であるかどうかはそれほど重要ではない。氏らの技術は,そのような観点からみて,かなり理想に近い結果をもたらしていると考えられる。

しかも,これだけ低コストに高品質のカラー化を行うことができるというのは,それだけで非常に実用的な技術であるはずだ。例えば,そう遠くない将来に,「白黒画像のカラー化」がありふれた「フォトショップ技」のひとつとなる日がやってくるかもしれない。


The Second Law of Bad Management

2005-03-14

出社すると同時に休日の間に書き進めたコードをコミットし,幾つかの案件をメールで問い合わせ,定例のミーティングを終えてからスケジュールの調整を行い,また幾つかの案件を検討していると,それで一日が終わってしまう。今日のような日はコードを書くことがほとんど無い。

過去のプロジェクトにおける自分の役割は,できるだけ多くのコードを書くことにあった。しかしそれが今では,プログラムおよびプログラマの全体の管理を行うことが主な役割となっている。そのため,当初からコードを書く仕事の量はかなり絞り込んで,管理の方に多くの労力を割けるよう配慮してきたつもりだった。しかし結局のところ,その配慮も十分ではなかったと今になって思うことがある。チームを構成する人数が多くなればなるほど管理のコストは増加する。今の規模のチームを淀みなく管理するには,管理面の問題に対して常に気を配ることができるぐらいの余裕が無くては難しい。少なくとも今の自分の実力に照らし合わせる限りでは,その必要があると感じられる。

このような問題に直面する度に,トム・デマルコの「間違った管理の第二法則」を思い出す。まだ氏の著書 "Slack" は読んだことが無いのだけれど, Jamie Fristrom 氏が引用しているのを見て,この法則を知った。

http://www.gamasutra.com/features/20031121/fristrom_01.shtml

「間違った管理の第二法則」とは,自分自身を「便利屋」(原著では "utility infielder" ― 「便利な内野手」)にしてしまうことだ。 Fristrom 氏は,管理を行う立場になるということは,すなわちコードを書く量は減るのだということを理解しなくてはならないと警告する。さもなければ,定期的に割り込んでくる管理面の問題によって,まともにコードの仕事を進めることができなくなるばかりか,当然のごとく管理も疎かとなり,プロジェクト全体が混沌の闇へと迷い込んでしまうことになる。

制作工程上の効率や制作物の品質を求めるならば,プロジェクトの管理は必ず重視しなければならない要素だ。先日, Gamasutra に記事 "Making Great Games In 40 Hours Per Week" を寄稿していた Hank Howie 氏は,同記事において管理面の重要性を繰り返し強調しており,個人的にはその点が印象的に感じられた。

http://www.gamasutra.com/features/20050131/howie_01.shtml

多くのゲーム制作現場は,才能を備えた創始者によって,固まったビジョンと「ゲームを作る」という目標の下に形成されている。これらの要素は,「ある地点」まで人々をまとめることができるものの,その「ある地点」を越えた後は,その会社の組織基盤と管理能力がまとめる力を生み出すことになる。

もちろん,製品を生み出す原動力が個々人の創造性にあることは否定すべきではない。ただ,その原動力を適切な量にまで増幅するには,組織基盤や管理能力といった要素が必要になってくるはずだ。そして,その管理を行う役割を委ねられたならば,往々にして創造よりも管理に腐心することが求められるのだということを承知しなければならないのだろうと思う。


Peter Principle

2005-03-15

管理を行う役割を与えられた結果,管理作業に追われることになってしまうのならば,いっそのこと創造性など重視せずに,ただ管理能力に長けた人物を用いればよいと思われるかもしれない。そうすれば,創造性は創造作業に,管理能力は管理作業にと,適切な分担を行うことができるに違いない。

しかし,このような考えは,また別の誤りの始まりでしかないと Fristrom 氏は指摘する。

この状況に対する簡単な解決策は,技術力や芸術的素質よりもむしろ管理能力に長けた人物を雇うことにあると思われる。しかしこれは間違いだ。これは「ピーターの法則」を「ディルバートの法則」に置き換えたに過ぎない。結局は,誰からも尊敬されない管理者や,愚かな道筋を辿ろうとしているメンバー達を怒鳴りつけることのできない管理者に終わってしまうのだ ― 「エンジン全体を0から書き直す必要があるって? うん,いいよ」。

様々な問題に対して正しい判断を下し,なおかつ,その判断にチーム全体を納得させるだけの説得力を与えるには,管理を行う人物自身が,その分野に関して正しい知識を備えていなければならない。そのためには,チーム内で最高の技量とまではいかなくとも,高い技量を持つ人々の中の一人である必要があるだろうと氏は指摘する。

ところで,ここで使われている「ディルバートの法則」とは,言うまでも無く「無知な上司」のたとえであるとして,「ピーターの法則」の方は,個人的に聞いたことの無い言葉だった。これはどうやら,ローレンス・ピーターの著書「ピーターの法則」が原典であるようだ。

http://www.h7.dion.ne.jp/~shindan/dokushonote4.html

http://pespmc1.vub.ac.be/PETERPR.html

ピーターの法則とは,「人々は自らが無能になるレベルにまで昇進する」という社会現象を扱った概念だ。階層構造を持つ組織において,人々は自らの能力を発揮できる階層に居る間は昇進を続け,能力を発揮できない階層に達すると昇進が止まってしまう。かくして,組織の内部は無能な人々ばかりで埋め尽くされてしまうことになる。

「間違った管理の第二法則」は,まさにピーターの法則によって生み出される結果のひとつだ。たとえ高い技術力を有していたとしても,その人が管理者として同様に高い能力を発揮できるとは限らない。その移行を成功させるには,まず正しい適任者を選出することと,次に適切な指導と補助を行うことが重要であると Fristrom 氏は説く。そして何よりも興味深いのは,当の Fristrom 氏自身が,「技術ディレクターであるよりかはゲームデザイナーでありたい」という意思から,自ら技術ディレクターの役を降り,他のプログラマーへの引継ぎを行ったという体験談を述べていることだ。


POV Toy

2005-03-21

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最近,仕事の方が非常に重要な時期に差し掛かっており,もはや休日出勤が欠かせない状態になってしまっている。それでも,各所の都合と調整が行われた結果,今日一日は何とか休みにすることができた。久々に10時間以上の睡眠をとって非常に爽快な気分だ。この先の当分の間,こんな機会は無いのだろうと思うと,ほんの少し気が滅入るものの……。

以前のプロジェクトでは,勤務地が比較的遠かったことから,職場に泊まることで時間の節約を行っていた。それが今では,家から30分ほどの所に勤務地があるため,安易に泊まるよりも出勤する時間を早めることによって時間の節約を試みている。先週の一週間は,それを実践すべく,徐々に出社時間を早めてみていた。やはり普段の昼出勤パターンに慣れてしまっていると,9時よりも前に出勤するのはなかなか難しいと感じられる。


仕事がこんな調子のため,ウェブを見たり本を読んだりする時間もかなり減っている。気晴らしに幾つかのニュースサイトをチェックする程度だ。

ニュース系のサイトで最近のお気に入りは,ハッカー系ニュースサイト "hack a day" だ。

http://www.hackaday.com/

"hack a day" は,ハッキング系のネタを毎日紹介するニュースサイトだ。ハッキングとは言っても,ここでの「ハッキング」はサイバー犯罪の呼称ではなく,工作技術を駆使した職人的芸当のことを指している。例えば,何の変哲も無い関数電卓を意味も無くオーバークロックしてみたり,紙だけでエニグマ暗号の解読器を作ってみたり,輪ゴムとクリップを使って職場用のブービートラップを作成してみたり……という風に,様々な遊び心とチャレンジ精神に満ちた「ハック」が,日々紹介されている。

最近のネタで個人的に面白かったのは, "drewish" 氏による "2-sided pov toy" だ。

http://drewish.com/blogger/archives/2005/03/17/2sided_pov_to...

"POV" とは "Persistence of Vision" の略で,いわゆる残像のことを意味する。 LED が縦に並んだ棒を横に振ると画像が浮かび上がるというオモチャがあるけれど,これはそれの自転車版だ。基になっているのは ladyada 氏(先日の "xoxbox" の開発者だ)の "Spoke POV" であり, drewish 氏はこれを表裏2面対応に拡張することによって,自転車のスポークの両面にそれぞれ異なった画像を描くことができるようにしている。

http://www.ladyada.net/portfolio/2003/index.html

この手の「残像オモチャ」を回転するものに据え付けるというアイデアは,なかなか面白いと思う。同様の原理を応用したオモチャに,英 Upstarts 社の "i-Top" がある。

http://www.thinkgeek.com/cubegoodies/toys/6b1d/

http://www.firebox.com/?dir=firebox&action=product&pid=788

http://www.upstarts.co.uk/trade/productview/2/2

"i-Top" は LED による残像を利用したコマのオモチャだ。残像の内容を当てるゲームや,回転量を競うゲームなどが遊べるほか, "Pro" バージョンでは自分の好きなメッセージを表示させることが可能になっている。


God of War

2005-03-22

今週は祝日で短くなっているうえに何かと用事が多く,それでいて仕事も忙しいとあって,かなり慌しい1週間になりそうな気がしている。

ゲーム系ニュースサイト "Joystiq" に,北米で 22 日に発売となったソフト "God of War" の話題が取り上げられていた。

http://www.joystiq.com/entry/1234000813036980/

http://us.playstation.com/Content/OGS/SCUS-97399/Site/main.a...

個人的には注目から外れていたソフトなのだけれど,ゲーム関連サイトの評価は驚くほど高い。著名サイトにおいて 100 点満点中 90 点以下の評価は無く, gamerankings.com の集計によれば平均点数 97.8 点という,非常に高い評価が下されている。

http://www.gamerankings.com/htmlpages2/919864.asp

ゲームの内容は GameSpot 等で公開されている映像からうかがうことができる。

http://www.gamespot.com/ps2/action/godofwar/media.html

禿頭のマッチョ主人公がフガフガ叫びながら敵をバッサバッサと斬りまくって血に染めていく様は,いかにも紋切り型の洋ゲー風味ではあるものの,映像の美しさとゲームとしての楽しさを期待させてくれる内容ではあると思う。実際のところはプレイしてみないことには分からない。何とか機会を得てみたいと考えている。

ところで,少し調べていて気が付いたのだけれど, gdalgorithms-list や GDC の講演などでお馴染みの Christer Ericson 氏が,このゲームの開発に係わっている。

http://realtimecollisiondetection.net/

というか,氏の衝突判定本 "Real-Time Collision Detection" が既に発売されていることにも,今日になってようやく気が付いた。当初の発売予定日から音沙汰の無い日々が長く続いていたことから,すっかり存在を忘れてしまっていた。もちろん,早速購入させていただこうと考えている。恐らく読んでいる暇は無いものの……。


The Future of Content

2005-03-26

最近,徐々に出勤時刻を早めてみている。勤務時間を増やすことが目的なので,当然のごとく,個人的な時間はどんどん削られてしまっている。今はそういう時期なのだと考えることで自分を納得させているものの,この忙しい時期が終わった後に,また元の調子に戻ることができるのだろうかと考えると,少し心配な所もある。

GDC 関連の記事は,まだほとんどチェックすることができていない。じきに公式ページの方で各講演の資料が公開されるものと思われるが,それらに目を通している暇もあまり無さそうだ。

http://www.gdconf.com/

GDC 2005 において行われた著名人の講演の中でも,恐らく最も注目を集めたもののひとつが, Will Wright 氏の講演 "The Future of Content" ではないかと思う。

http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20050313/gdc_will.h...

この講演では画面の撮影が禁止されていたため,内容は謎めいているものの,実際には GameSpy 等のサイトで隠し撮りされた映像を拝むことができる。

http://www.gamespy.com/articles/595/595975p1.html?fromint=1

http://www.joystiq.com/entry/1234000117036387

興味深いのは,このゲーム "Spore" の原点がデモシーンにあると述べられていることだ。

http://www.gamasutra.com/gdc2005/features/20050315/postcard-...

実際にデモシーン生まれのエリートプログラマ集団を雇い入れて,それらを「秘密開発施設」に放り込んだ結果,出来上がってきたものがこの "Spore" だと言うのだから,なかなか面白い。この辺りの顛末は,また実際の製品が出来上がってから,様々な逸話を生み出すことになるのではないかと思う。


Procedural Method

2005-03-28

やはりと言うか,北米のゲーム産業には一定数のデモシーナー出身者が紛れ込んでいるようであり, Will Wright 氏がデモシーンに関して言及した途端に一部で妙な盛り上がりを見せたことがレポートの中にも記されている。

http://www.gamasutra.com/gdc2005/features/20050315/postcard-...

一方,この世界から遥か遠くには,アルゴリズムに身を捧げる小さな部族が居ると言う。「その部族とは,デモシーンだ」。 Wright 氏はそう述べた。氏が話を続けるには,雷雨のような凄まじい拍手が止むのを待たねばならなかった。「彼らは基本的に狂っている」。笑い声の中で,氏は彼らのやっていることを説明した ― 64 キロバイトの中に収められた長いコンピューター・アニメーション映像(デモ),アルゴリズム的に生成された画像と音楽,極端に小さなサイズのレイ・トレーサーやフォン・シェーダー等の3Dレンダリング手法。そして遂には,数ある部族がその法典を集大成にまとめ,一堂に会して黒魔術を極める方法を編み出すことになる。 Assembly 等のデモパーティーの映像が映し出されると,それは聴衆の笑いと喝采を誘い出した。

では何故 Wright 氏はデモシーンに関心を持ったのだろうか。その鍵となるのが "procedural method" ― 「手続き的手法」だ。

実際にこの講演を観たわけではないので,確信を持って言及することはできないものの,各種のレポートを見る限りでは,この講演は大きく分けてふたつのテーマを含んでいたように思える。ひとつは,氏の新作 "Spore" の紹介であり,もうひとつは「手続き的手法による無限のコンテント生成の可能性」の提示だ。

例えば,前出の impress のレポートなどは,主に前者に着目しているように思われる。しかし個人的には, Wright 氏の本題は後者にあったのだろうと解釈している。すなわち,高品質な製品を提供するためには膨大な量のコンテントを制作しなければならないという,非常に困難な命題を背負わされた産業に対して,ひとつのアンチテーゼを提示したわけだ。


Real-Time Collision Detection

2005-03-29

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Christer Ericson 氏のサイト realtimecollisiondetection.net の "Publications" のページでは,氏が過去に行った各種の講演のスライド資料が公開されている。

http://realtimecollisiondetection.net/pubs/

GDC の方はともかくとして,氏が SIGGRAPH でもコースを担当していたことには気付かなかった。凸形物体の近接クエリに用いられる GJK アルゴリズムの解説を行っている。細部までは触れられていないものの,とても分かりやすくまとめられており,概念を掴むには適した参考資料となるのではないかと思う。

ちなみに,氏の書籍 "Real-Time Collision Detection" は既に Amazon に注文しているものの,どうやら取り寄せになってしまっているらしく,未だ届く気配は無い。上記ページで扱われているような内容は,すべてこの書籍の中でも詳しく触れられているとのことだ。

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/1558607323/

"Numerical Robustness for Geometric Calculations" の方は,浮動小数点演算の安定性の問題に関して触れている。こちらの資料に関しては,スライドだけではやや不十分であると感じられた。スライド中に挙げられている参考文献を当たってみるのが良いかもしれない。

この資料において,浮動小数点値の精度の「偏り」を表すために用いられていた図(上の画像)が面白い。浮動小数点値は,値域が非常に広い反面,精度が相対的に変化する性質がある。そのため,例えば精度に応じてグリッドを描くと,上の図のように一様な分布ではないことが分かる。