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3D Euclidean Geometry and Algebra

2006-02-01

Daniel Fontijne and Leo Dorst. Modeling 3D Euclidean GeometryIEEE Computer Graphics and Applications, vol. 23, no. 2, pp. 68-78, March/April, 2003.

一般に,コンピュータ上で3次元の幾何学的な概念を扱う場合には,3次元の線形代数が用いられる。これは,3次元の空間を3次元直交座標系によって表現するものであり,直接的で自然な考え方であると言える。しかし,様々な種類の問題を扱うに従って,もう少し間接的な表現を導入した方が,問題を扱いやすくなるということが分かってくる。

例えば,コンピュータ・グラフィクスの世界ならば,アフィン変換を行列として扱うことのできる同次座標系 ― つまり4次元の線形代数を用いるのが良いとされる。また,物体の回転を扱う際にはクオータニオン ― つまり4次元の複素代数を用いるのが良いとされる。また,直線の交錯を扱う際にはプリュッカー座標系 (Plücker coordinates) [Wikipedia] と呼ばれる6次元空間を用いた表現が適するとされる。

これらの数学的なモデルは,ある特定の問題を扱うには便利だが,ひとつのモデルですべての問題を解決するということはできない。ゆえに,あるときは3次元の線形代数を用い,あるときは同次座標系を用い,あるときはクオータニオンを用い……といった具合に,問題に合わせてモデルを使い分けることになる。これは非常に煩雑な手続きであり,混乱からバグを生み出すことも少なくない。

もうひとつの問題として,幾何学的な意味の曖昧さがある。同次座標系を用いる場合には,あらゆる幾何学的要素を4次元ベクトルという単一の代数的要素によって表現することになる。ゆえに,各々のベクトルが持つ意味というものが非常に曖昧になりやすい。例えば,あるベクトル v が漠然と渡されたとき,その v は何を表していると解釈すべきだろうか? 点の位置だろうか? それとも直線の向きだろうか? それとも平面の法線だろうか? ともかく,これらの意味を正確に把握し,適切な演算を用いるようにしなければ,いずれ不可解な挙動に付き合わされることになってしまう。

それでは,これらの煩雑さと曖昧さを取り除き,すべての問題に対して柔軟に用いることのできる統括的なモデルを作り出すことはできないだろうか? これは少し贅沢な要求のように思えるが, Fontijne と Dorst によれば,問題の範囲を3次元の幾何学に限定するならば,そういったモデルが存在するとされる。それは,クリフォード代数の応用の一種である geometric algebra (注:訳語不明)を用いた5次元共形モデル (conformal model) であるとされる。

5D Conformal Model

2006-02-09

Geometric algebra はクリフォード代数と呼ばれる代数構造の一種であり,これに幾何学的な解釈を与えたものであるとされる。クリフォード代数の数学的な性質については [本間] および [Wikipedia1] などが参考になる。ただし [Fontijne and Dorst] で触れられているような狭い範囲の応用では,代数構造としてのクリフォード代数が直接に姿を現すことは無い。 [Wikipedia2] に挙げられているような geometric algebra の基本的な性質さえ把握しておけば問題無いものと思われる。

3次元ユークリッド空間を geometric algebra で扱うには conformal model の導入が勧められる。 Conformal model では3次元ユークリッド空間上の点を表すのに5次元空間を用いる。これは,4次元の同次座標系を利用して3次元空間上の点を表すのに似ている。同次座標系には,アフィン変換の扱いが簡単になるなどの利点があったが, conformal model にも,やはり様々な利点がある。

Conformal model では通常の直交基底 e1 e2 e3 の他に,2つの基底 e0 e が用いられる。これらは,それぞれ「原点」と「無限遠点」を表すものと捉えると理解しやすい。

Geometric algebra では,内積(記号「・」),外積(記号「∧」),幾何積(記号無し)の,計3種類の積が用いられる。これら3つの積は次の関係式によって関係付けられる(左辺が幾何積)。

060209_0.png

Geometric algebra の外積は,ユークリッド空間で言うところの「クロス積」(記号「×」)ではなく,外積代数 [Wikipedia3] で言うところの「楔積」 (wedge product) に対応する。幾何学的には「要素を拡張し広がりを作り出す」というような働きを持つと捉えることができる。例えば,3点 x1 x2 x3 を通過する円は次のように表される。

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また,2点 x1 x2 を通過する直線は次のように表される。

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これは,3点のうち1点が無限遠にある円であると捉えることもできる。なお,外積は交換法則を満たさないため, x1 x2 の順序を入れ換えると,元とは異なった意味を持つようになる(逆方向の直線を意味する)。

4点 x1 x2 x3 x4 を通過する球(球面)は次のように表される。

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また,3点 x1 x2 x3 を通過する平面は次のように表される。

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これもまた,4点のうち1点が無限遠にある球であると捉えることもできる。 x1 x2 x3 の順序を入れ換えれば表裏の異なる平面を意味するようになる。

GAViewer

2006-02-10

Geometric algebra の世界は GAViewer によって体験することができる。

GAViewer は Fontijne らによって作成された視覚化ツールの一種で, geometric algebra の各種要素を OpenGL によってリアルタイムに視覚化する。また,それらの要素はマウス操作によって対話的に変化させることができる。 GAViewer は Fontijne らによる geometric algebra のチュートリアルにも用いられており,基本的な概念を把握するのに最適な環境であると思われる。

例として,6点 x1, x2, x3, x4, x5, x6 を定義し,これらの外積の組み合わせから,3つの球面 s1, s2, s3 を構築してみた。

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s1=x1^x2^x3^x4, s2=x2^x3^x4^x5, s3=x3^x4^x5^x6

次に,これらの球面の交差を求めてみる。要素同士の交差は dual との内積をとることによって求められる。

060210_1.png

下図を見ると分かるように,球面同士の交差は円によって表される。

060210_2.jpg
c1=s1.dual(s2), c2=s2.dual(s3), c3=s3.dual(s1)

球面同士以外の組み合わせでも,同様の手続きによって交差を求めることができる。例えば下図では,2点 x1, x6 を通過する直線 l1 と,球面 s3 の交差を,上と同様に dual との内積をとることによって求めている。

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l1=x1^x6^einf, p=l1.dual(s3)

GAViewer のページからダウンロードすることのできるチュートリアルの中には多彩なデモが収録されている。これを色々と覗いてみると,思いのほか GAViewer の対話性が高いことに驚くと同時に,様々な種類の問題が geometric algebra によって簡潔に表されることが分かる。

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DEMOpuma

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DEMOloxodrome

Performance of Geometric Algebra

2006-02-12

Fontijne らは, geometric algebra と他のモデルを比較するにあたって,具体的な応用に基づいた比較を行うために,各モデルを用いたレイトレーサーの実装を行っている [Fontijne] 。その結果と各種の考察については [Fontijne] および [Fontijne and Dorst] [Hildenbrand et al.] に詳しい。

比較の対象としては,3次元線形代数,3次元 geometric algebra, 4次元線形代数(同次座標系),4次元 geometric algebra (同次座標系), 5次元 geometric algebra (conformal model) が挙げられている。題材としてレイトレーサーを選択したのは,様々な種類の幾何学的演算が含まれていることや,原理の単純さから非常に小さな実装が期待できること,などが挙げられている。

結果としては,5次元 geometric algebra は,実装の「エレガントさ」では明らかに優れているものの,速度面では大きく不利であることが示されている。 Fontijne らが実装を行った5次元 geometric algebra 版のレイトレーサーは,3次元線形代数版と比較して5倍近くも遅いという結果が弾き出されている。

Geometric algebra を用いた実装が高負荷になる理由としては,次元の多さが指摘される。 n 次元のベクトル空間を扱う場合,クリフォード代数では 2n 個の基底を扱う必要がある。従って,5次元の conformal model においては 25 = 32 個の基底を扱わなくてはならない。単純に考えて,4次元の同次座標系を扱う場合と比較して 8 倍の記憶領域が必要とされることになる。

基底の多さに従って演算量も増加する。5次元の geometric algebra における幾何積をマトリクス・ベクトルの積として実装する場合, 32x32 のマトリクスと 32 次元ベクトルの積として実装されることになる。これは,単純に同次座標系におけるマトリクス・ベクトルの積と比較すると 32x32/(4x4) = 64 倍もの演算量が必要とされることになる。

ただし,常にこの量の演算が必要とされるわけではない。扱う要素の grade に応じて必要な基底の数は変化することから,演算対象の grade さえ把握していれば,演算量や記憶領域の削減を図ることができる。

Fontijne らがレイトレーサーの実装に用いたコード・ジェネレータ "Gaigen" [Gaigen] は,このような grade に応じた処理の最適化を行うほか,実行時のプロファイル情報に基づいて最適化を行う機能 (PGO; Profile Guidede Optimization) を搭載している。これらの最適化により,例えば CLU [Perwass] のような従来の実装と比較して 30 倍から 60 倍もの高速化が実現されている。

コード・ジェネレータ Gaigen は,改良版である "Gaigen2" において更なる高速化が予告されている。また他にも,テンプレート・メタプログラミングの手法を応用することによって,特殊なコード・ジェネレータを用いること無く高効率なコードの生成を可能とする方式も試みられている [nklein] 。今後もこのような改良は続けられるものと思われるが,現時点における geometric algebra の効率の悪さは誰の目にも明らかなものであり,これが多くの分野に受け入れられるには相当な効率化が図られなければならない。しかし,果たして改良の末に「速度」と「エレガントさ」のトレードオフが釣り合う地点まで到達できるかどうかについては,現時点では定かでない。

YouTube

2006-02-13

YouTube [YouTube] は面白い。しかし,思いつくままに探索を楽しんだ後に,多くの人は同じ疑問に突き当たることになるのではないかと思う。なぜこのサイトでは,こんなにも沢山の映像を無料で楽しむことができるのだろう? これらの映像の著作権は一体どのように扱われているのだろう?

YouTube のヘルプページを覗いてみると,「映像のアップロードはその権利を保持している人物からのみ受け入れる」とされている [YouTube] 。運営方針としてはあくまでも著作権保持者を尊重する姿勢であり [Gigaom] ,著作権の侵害が判明した場合は直ちに削除に応じるとしている。

しかし実情は,その姿勢をあまり反映できているとは言えない状態にある。 YouTube が話題に上るのは決まって著作権の扱いが怪しい映像に関するものであり,そのような映像を多く保持していることが YouTube の知名度を支えていると言える。 YouTube はその知名度を利用してバナー広告から収入を得ているのだから,「ユーザーが著作権の侵害を行うことを期待したビジネスモデルの上に成り立っている」と指摘されても無理も無い状況にある [Calacanis] 。

削除に応じるだけで防護策を敷いていないという点に問題があるように思われるが,法律家の見解によれば,ストリーミング・メディアに関して著作権保持者から訴えがあった場合,そのリンクを切断し訴えに応じれば, DMCA 法的には問題は解決される [NYTimes] 。

要するに,「ダウンロードできないのだから,元を断てば問題無い」という理屈だが,この理屈は著作権を保護する仕組みとしては既に機能していない。「エド・サリヴァン・ショー」の著作権を保持する Sofa Entertainment によれば, YouTube に削除要請を提出したところ,それらの要請は即座に受け入れられたものの,次の日にはすべて別のユーザーによってアップロードし直されていた [NYTimes] 。 Sofa 社側は削除要請に必要な書類を用意するために弁護士と助手2人を2日間動かしている。権利保持者側としては,これでは到底わりに合わない。

YouTube が単なる思い付きの実験サイトではなく,営利目的の歴とした企業であることは,問題をことのほか深刻にしているように思われる。多数のミュージック・ビデオの権利を持つ Reelin' In the Years Productions の David Peck 氏は, New York Times の取材に対して微妙なニュアンスの返答を残している。

YouTube が「突然現れた」 (fly-by-night) ウェブサイトではなく,従業員を持つ企業であることを知らされると, Peck 氏はトーンを変えた。「それはまた別の話になります ― 非常に由々しきことです」。

個人的な印象としては,写真共有サイトとして成功を収めている Flickr [Flickr] が著作権の明確化と健全なコミュニティの形成を促進するよう動いているのに対して, YouTube は著作権の在り処を作為的にぼやかすよう動いているように感じられる。その動きは,限りなくブラックに近いグレーゾーンを歩んでいる……というよりも,むしろ限りなくグレーに近いブラックゾーンを突き進んでいるという観がある。

かと言って [Calacanis] のような全否定を行うのも少し結論を急き過ぎているように感じられる。著作権を保持する側も,己の権利を極限まで行使することが必ずしも利益の最大化に結びつくとは限らないことを承知している。著作権侵害のリスクと広告効果の間の絶妙なバランス点を見つけることができれば,非零和 (win-win) の解答に辿り着くことも不可能ではないと感じられる。しかし現在の YouTube は,そのようなバランスからは程遠い場所にあるように思われる。

Bolt City

2006-02-14

Kazu Kibuishi - Copper

Good Life

「ああ……またこの感じだ。これ以上,物事がよくなることはないだろうって感じ。」 「その瞬間は,じきに終わってしまうのに,それを知ってて楽しむのは難しいよ。やりきれないな。」 「いつかは失ってしまうことが怖くて,むしろ楽しまない方がいいって思ってるのかもしれない。」

Jump Station

「これはひどく恐ろしい乗り物だね。いつもどこかに着地できるって,どうやって分かるのさ?」

「分からないよ! でも今まで何百回もうまくいっただろ? 大丈夫さ,フレッド。」

「どうしてそんなことが分かるの? もし,君が齢をとって,気付かないうちに油断するようになってるってだけだったら,どうするの? …… まあ,少なくともコントロールできてるって風ではあるよ,君は! 僕は君の背中に張り付いてるだけだけど!」

「君が僕の背中に括られてるのを見て,僕は跳ぶ。それで少し勇気付けられてるって感じてる。怖くないわけじゃないのさ。」

「怖いの?」 「もちろん。」

Red Cross

2006-02-15

Patent Arcade および gamesindustry.biz によれば,赤十字社からビデオゲーム産業に対して,ビデオゲームにおける赤十字章の誤用を避けるよう要請が行われている [PatentArcade1] [gamesindustry.biz] 。特に Patent Arcade は,カナダ赤十字社から法律事務所に宛てられた公開書簡を転載している [PatentArcade2] 。

赤十字章の使用制限については日本赤十字社のサイトに簡単な解説がある [JRC1] 。また,関連する国際法(ジュネーブ条約)および国内法についても抜粋が載せられており参考になる [JRC2] 。前出の書簡によれば,カナダでも同様に国際法と国内法(特に商標法)の組み合わせによって保護が行われている。これは他の欧米諸国においても同様であると思われる。

このように赤十字章の使用は各種の法令によって制限されており,本来の意図と異なる用途に用いることは固く禁じられている。更に加えれば,これは倫理上の問題であり,法律上の問題が云々という以前に,公の場において表現活動を行ううえでの最低限のルールとして遵守することが求められる。前出の書簡においても,過去の違反をあげつらい正すことよりも,これからの赤十字章を守るべく話し合いを行っていくことが望ましいとされている。

実際には,赤十字章の使用制限は既に常識として広まっており,多くの現場においてその使用を避けるべく配慮が行われている。80年代には数多くの場面において赤十字章が記号的に用いられていたが,最近ではほとんど見かけることは無くなったと感じられる。上の記事では具体例を挙げずに批判を行っているため,実際にどのような表現を問題としているのか非常に分かり難いところがある。

SawStop

2006-02-18

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Photo from SawStop website

「己のドックフードを喰らう」 (eat one's own dog food) という喩えがある [Wikipedia] 。これは,開発者が製作物を自ら使用する行為を意味する。開発者がユーザーの立場に身を置くことによって,ユーザーとの間にある距離を縮め,製作物に対する理解を深める。ユーザビリティを改善するプロセスにおいて重要な概念のひとつであると言える。

この「ドッグフード」という表現は,不味くて不快なものを喩えている。既に市場にある完成された製品を捨て,敢えて不完全なものを使うには,ある種の自己献身の精神が必要となる。例えば社内で新しいウェブブラウザを開発しているとして,その発展途上のバージョン ― 10分毎にハングアップするような代物 ― を日常的に使いたいと思うだろうか? 「ドッグフーディング」の精神に従うならば,この「不味いもの」を敢えて食らう覚悟を持たなくてはならない。

技術者は自らの製作物のために,どれだけ献身的になることができるだろう? Stephen Gass 氏による SawStop 開発の逸話は,その問いに対するひとつの答えを与えてくれる [Inc.com] 。

SawStop はテーブルソー(机型の電動丸ノコ;画像参照)の安全装置として発明された。テーブルソーは木工に欠かせない機械だが,見て分かる通り非常に危険な機械でもある。アメリカ国内だけでも年間に約6万人もの怪我人を出しており,そのうち約3千人は部位の切断に至っている [SawStop] 。

1999 年のある日, Gass 氏はあるアイデアを思いついた。木材と人体の間にある静電容量の違いを利用して安全装置を作成することはできないだろうか。静電容量の違いは丸ノコの歯に電気信号を流すことによって検出することができる。あとは,人体への接触を検出した瞬間に丸ノコを停止させる強力なブレーキを用意すればよい。

Gass 氏はいくつかの技術的問題を解決したのちにプロトタイプを作成し,ホットドッグのウインナーを使って実験を繰り返した。この実験は見事に成功したが,「ウインナーに対する安全装置」は誰も必要としていない。 Gass 氏は自らの手を使って安全装置の作動を確認する必要に迫られた。

― 2000 年の春の午後, Gass 氏は作業場に立ち,唸りを上げて回転する丸ノコの歯に向かって自らの薬指を突き入れるべく,闘志を呼び覚まそうと試みた。氏は切り傷による痛みを和らげようと,ノボケイン・クリーム(局部麻酔薬)を指に擦り込んだ。最初の挑戦,心臓が猛烈に鳴り響く中,指を近づけはしたものの触れる前に引っ込めてしまった。数分後,氏は再び挑戦する。今度はうっすらと赤く跡がつくぐらい近くまで指を進めることができたものの,うろたえてブレーキが作動する前に引っ込めてしまった。次の挑戦では,緊張から腕が痙攣を始めてしまった。もはや自らの手を固定することさえ難しい。それでも,三度目の挑戦を行うべく神経を集中させた ― すると,ついに歯は止まった。それはまさに氏が思い描いていた通りだった。 [Inc.com]

Guass 氏は,ユーザーとの間にある距離を縮めるために,自らの薬指を捧げた。ウインナーを使うだけでは,それには不十分であると考えた。自らの製品を売るためであるとは言え,簡単に真似することのできる行為ではない。その覚悟たるや,いかなるものだろう。

SawStop は素晴らしい発明のように思われるが,既存産業との間の軋轢などがあり,未だ広く普及するには至っていない。自動車のエアバッグなどがそうであったように,たとえ安全性を向上させることが明白であったとしても,そのコストを産業が良しと考えない限りは,広く普及することはない。

しかし恐らくは,最終的に SawStop は普及することだろうと思う。エアバッグも時間はかかったが,今ではほぼ全ての車体に搭載されるようになった。ユーザーが本当に必要としているものであれば,どんな形であれ,最終的には受け入れられるに違いない。

― Gass 氏は諦めることを拒んだ。氏の経営するポートランド法律事務所の3人の弁護士と協力し,15万ドルを掻き集め,更に洗練されたプロトタイプを構築し, 2000 年 8 月にアトランタで開催された国際木工フェアに参加した。そこでの反応は驚くべきものだった。 SawStop のブースは観衆で埋め尽くされ,観衆の注目はテーブルソーに次から次へとウインナーを突き入れる Gass 氏とその仲間の姿に注がれていた。「後で,その人たちが上がってきて言うんです ― 『あなたと握手がしたい』って」。仲間の一人である David Fanning 氏はそう回想する。「その人たちの多くは,2・3本の指を失った手で握手をしてきたんです」。 [Inc.com]

[via Eric.Weblog()]

Wood Gas Car

2006-02-19

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Photo from Zastava Yugo Page

木材ガス (wood gas) のバイオマス資源としての歴史は意外と古く, 19 世紀中盤にまで遡ることができる [Wikipedia] [Biomass R&D] 。日本では戦時中にガソリン不足から用いられた「木炭車」のイメージが強いが,欧米でも同時期に木材ガスを利用した自動車が広く用いられていた [Woodgas] [JamesLux] 。

ガス化装置 (gasifier) に充填された木材は,低酸素環境において高温で熱されることにより,熱分解 (pyrolysis) とガス化 (gasification) を経て一酸化炭素,水素,二酸化炭素,メタン等々のガスを排出する。これらのガスは可燃性であり,内燃機関の燃料として使用することができる。特にガソリンエンジンの場合,キャブレター(気化器)を取り外す等の簡単な改造のみで転用が可能であるため,ガソリンが不足する状況においては代替燃料として用いられることがある。

現在では木炭車を街中で見かけることはまず無いが,バイオマス資源への注目から話題として取り上げられることはある [ExciteBit] 。 Zastava Yugo Page によれば,セルビア・モンテネグロの技術者 Anton Peterka 氏は,セルビアの国産車である Yugo [Wikipedia] を木材ガス駆動にするという改造を施すことに成功した [ZastavaYugo] 。

車体後部に取り付けられたガス化装置によって生成された高温(約 300 度)の可燃性ガスは,車体上部のフィルターによって不純物を取り除かれ,約 30 度にまで冷却されたのち,エンジンへと供給される。燃焼時の駆動力は,ガソリン混合ガスの場合は 3,344 kJ であるのが,木材ガスの場合は 2,590 kJ にまで低下する。最高速度は時速 85km ほどであるとされる。

出力は弱まるが,燃費に関しては木材ガスに利があるかもしれない。1リットルのガソリンに対応する木材の量は 2.5kg 程度であり, 20kg の木材があれば 100km 走行することができる。これらの燃料の価格を単純に比較することは難しいが,多くの場合において木材の方が圧倒的に燃費が安くなるのではないかと思われる。現にセルビアは 90 年代に行われた経済制裁と空爆の影響から長期間に渡ってガソリンの供給が不安定化していたという背景があり [ユーゴ便り] ,恐らくそのような状況が Peterka 氏を木材ガス車の開発へと駆り立てたのではないかと思われる。

Game Theory

2006-02-27

武藤滋夫著,日経文庫経済学入門シリーズ,ゲーム理論入門 [ISBN:4532108292]

なによりまず,非常に手頃な価格であることが嬉しい。内容の方では,ゲーム理論の基礎的な概念について広く浅く扱っており,一通りの概論を素早く学ぶことができるようになっている。「入門」と題名にもあるように,「まず最初に読む本」として勧めることができるのではないかと思う(ただし,自分自身ゲーム理論を学ぶのは初めてなので,確信は持てない)。電車の中で気軽に読める文庫本サイズであることも,個人的には嬉しかった。

例題や練習問題では実際にありそうな事例をモデル化して扱っているが,あくまでも例題のための事例であり,そこに読み物的な面白さは無い。そのような面白さを求める場合は他にもっと適した本があると思われる。良くも悪くも教科書的な内容であることは承知しておいた方がよい。「分かった気分になる」よりももう少し踏み込んでみたい入門者に適した本と言えるのではないかと思う。

Principia Mathematica

2006-02-28

大上雅史,和田純夫著,数学が解き明かした物理の法則 [ISBN:4860640438]

ニュートンは,自らが編み出した微分法を利用して天体の運動を説明した。量子力学の開祖たちは,複素関数を利用してミクロの世界の不思議な働きを説明した。この他にも,近代に見られる数々の物理学の発展の裏には,その時々の新たな数学的理論の応用があったと考えられる。この本では,そのような数学と物理学の関連性について,分かりやすく解説を行っている。

理論は単体では覚えにくいが,応用と結びつくと覚えやすくなり,かつ面白く感じられるようになる。数学と物理学の関連性を知ることは,そのような理解の助けに繋がるかもしれないと思い,この本を手に取ってみた。

しかし実際に読み進めてみると,数学的な要素は意外と薄いことが分かる。むしろ,数学的な理屈の展開は極力排し,直感的な理解を促そうという意図が感じられる。数式の使用は最低限に抑え,図による解説を多用し,高校レベルの数学的基礎と幾何学的な直感を総動員することによって,比較的難解な物理法則の理論をやさしく説明している。説明の順序も理に適っており,読みやすく理解を得やすいかたちにまとめられている。

教科書のように理論を修得するための本ではないため,結局は「分かった気分になる」だけであるという感は否めない。しかし,最初から「読み物」として割り切っていれば,非常に良質な内容であると言うことができるのではないかと思う。

ところで,本書を読むと,ニュートンが古典力学の解析に利用した微分法(流率法)が,現在の微分法とは随分異なるものであることがわかる。難解な幾何学的解析を駆使した手法であり,別の問題への応用が利かない,いわゆるアドホックな解法であると感じられる。

本書の説明によれば,現在見られる微分法の姿は,ニュートンと同時期に活躍した数学者であるライプニッツとその一派によって編み出されたものであるとされている。この辺りの歴史についても興味が湧く。いずれ機会があれば,この辺りについて触れた書籍も読んでみたいと思う。