Radium Software Development

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Magic Algorithms

2006-10-03

問: テーブルを使わずに 32-bit のビットパターンを逆順に並べ替える最短の手順は?

答例:

x = ((x & 0xaaaaaaaa) >> 1) | ((x & 0x55555555) << 1);
x = ((x & 0xcccccccc) >> 2) | ((x & 0x33333333) << 2);
x = ((x & 0xf0f0f0f0) >> 4) | ((x & 0x0f0f0f0f) << 4);
x = ((x & 0xff00ff00) >> 8) | ((x & 0x00ff00ff) << 8);
x = (x >> 16) | (x << 16);

ケンタッキー大学の Hank Dietz 教授らによるサイト The Aggregate 内のページ Magic Algorithms では,ビット操作の妙を用いた「技」の数々が紹介されている。上の例のように,「必要な場面は少ないが,いざという時に知っていると少し嬉しくなる」ような技から,日常的に役立つ技,残念ながら使い道の無い技まで,様々に挙げられている。

10年前であれば喜んで飛びついたであろうこれらの技の数々も,キャッシュメモリが大容量化した現在となっては,単純にルックアップテーブルを用いた方がかえって高速になることも少なくない。上の例も,同じ処理を連続して繰り返し行うようであれば, 8-bit 毎にルックアップテーブルを適用する手法の方が高速になる可能性がある。

それでも例えば,条件分岐を消去する技などは今でも役立つ場面があるかもしれない。条件代入命令の用意されていないアーキテクチャにおいては "Integer Minimum or Maximum" や "Integer Selection" を試してみる価値は十分にある。

また,特定のアーキテクチャにおいては,浮動小数点値の比較に高いコストを要される場合がある。この問題については Pete Isensee 氏の講演資料に詳しい。浮動小数点値の比較演算の結果を整数ユニット側へ反映させるためにメモリのフラッシュが必要とされるという仕様がコストの要因であるが,この処理を "Comparison of Float Values" ないしはその派生技を用いることによって整数ユニット側に集約することができれば,そのコストを大幅に軽減することができると考えられる。 Isensee 氏によれば,その差は 10 倍から 20 倍にも上るとされる。

The Semblance of Proof

2006-10-06

Jay Luvaas. Military History: Is It Still Practicable? Parameters, March 1982.

フリードリヒ大王

フリードリヒ大王(フリードリヒ2世)はプロイセン王国を繁栄へと導いた名君として知られる。大王は啓蒙専制君主の代表的存在として挙げられるとともに,卓越した軍事的才能を持つことによっても知られている。7年戦争の中でも最も有名な戦いのひとつである「ロスバッハの戦い」においては,5万4千のフランス軍に対し2万2千という圧倒的な兵力的不利を抱えながらも,これを迅速な戦術展開によって各個撃破することに成功している。それから1ヶ月後の「ロイテンの戦い」においても,6万5千のオーストリア軍に対して3万5千の兵で挑み,陽動を伴った側面攻撃を成功させることによって勝利を得ている。

フリードリヒ大王の軍隊は,何故それほどまでに強かったのか? 大王は多くの戦いにおいて斜行戦術 (oblique order) と呼ばれる特殊な展開手法を活用することによって勝利を得ていたとされる。前述の二つの戦いにおいても,主たる戦場においては斜行戦術が用いられている。ゆえに,斜行戦術こそが大王の強さの秘訣であると見られることも少なくない。

しかし,こうした見方を,同じく軍事的才能の孤高でありながらフリードリヒ大王の信奉者でもあるナポレオンは,きっぱりと否定する。曰く,「ある場合において優れたものは,他の場合では劣るものである」。フリードリヒ大王の強さは「インスピレーションに基づいた天才的な振る舞い」にあるのであって,斜行戦術にあるわけではないと指摘する。

また,フリードリヒ大王の軍隊において幕僚に属し,後にアメリカ陸軍の開祖となるフォン・シュトイベンも,斜行戦術が必勝の手段ではないことを心得ていた。戦闘の経験もろくに無いアメリカ開拓民に対し,高度な訓練と厳格な規律が必要とされるフリードリヒ大王の手法をそのまま用いるのではなく,当時のアメリカを取り巻く特殊な事情を考慮した上での軍隊の育成に勤しんだという。

軍事史学の非実用性

件の記事は,このような例を通して,近代の軍隊において軍事史学が非実用的な学問として考えられているその理由を説明する。最も重要な点は,歴史とはその背景(コンテキスト)と結び付けられてこそ初めてその意味を持ちうるということである。そして,その背景とは,すべての歴史を通じて常に独特なものであり,まったく同じことなどひとつも有り得ない。

歴史とは,ある特定の状況の下に人が置かれた際に,その人がどのような行動をとりうるかという例を示すものに過ぎない。例えば,第二次世界大戦の西部戦線において活躍したアメリカ軍人として有名なジョージ・パットンは,敵将ロンメルが過去に記した著書から,ドイツ軍が雨天を攻撃に利用する性向を読み取ったという。このような事例は,軍事史を有効に活用しうる限定的な例として指摘することができる。

歴史とは,それ自体が何かの理論を示すものではない。そこから適切な理由付けを与えること無く抜き出された「理論」は,偽りの「理論」でしかない。歴史から問題と解決法のみを単に抽出し,それを交換可能な法則とする行為は,人々が最も犯しやすい過ちのひとつであるとされる。

経験的知識の限定性

件の記事は軍事史について述べられたものだが,その最重要点を以下のように一般化したい。

全ての経験的知識は,背景となる文脈から切り離された途端に,その意味を失う。

「○○は××で成功したらしい」,「××というものがあって,○○でそれを使ったら上手くいったらしい」……このように経験に基づいた言説は,適切な理由付けが行われれば何らかの意味を持つことができるが,そうでない限りは,その文脈と結び付けられることによって辛うじて意味を持ちうるものである。しかし往々にして,人々はその文脈を無視して経験的知識を引き合いに出す傾向があるように思われてならない。

Multitasking is inefficient

2006-10-13

Is Multitasking More Efficient? Shifting Mental Gears Costs Time, Especially When Shifting To Less Familiar Tasks. American Psychological Association.

Joshua S. Rubinstein, David E. Meyer, Jeffrey E. Evans. Executive Control of Cognitive Processes in Task Switching. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 27(4): 763--797, 2001.

基本的に,人間の頭は複数の作業を同時に処理することができない。それにも関わらず複数の作業を平行して処理することを求められると,ちょうどシングルコアのプロセッサが複数のタスクを時分割処理するときのように,ある間隔毎に作業対象を切り替えるという対処がなされることになる。実験心理学の分野においては,実行制御 (executive control) と呼ばれるシステムが,このような作業の切り替えを担っていると捉える。

実行制御系の考え方自体は古くから存在するものだが, Rubinstein らはこれを二つの段階 (stage) からなるモデルとして説明しようと試みる。これらの段階のうち,一つは「ゴール変更」 (goal shifting) と呼ばれ,現在の作業とその「ゴール」が何であるかを把握するための段階とされる。もう一つは「ルール活性化」 (rule activation) と呼ばれ,現在の作業に対応する「ルール」を活性化するための段階とされる。また,ルール活性化の段階には,それまで行っていた作業のルールを無効化するという過程も含まれている。

Rubinstein らは,数十人の被験者(ミシガン大学の学部生)を集めて簡単な実験を施し,その結果から氏らのモデルの存在を捉えようとしている。

実験の結果には,例えば以下のようなものがある。

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Image from Rubinstein's paper

このグラフは,一定数のカードを模様や色に基づいて分類するという作業に要された時間(1枚辺りの平均時間)を表したものであり,薄い色の棒は同じルールの作業を繰り返し行った場合の時間を,濃い色の棒は異なる二つのルールの作業を交互に行った場合の時間を表している。また,左のグラフは複雑度の比較的低いルールにおける結果を,右のグラフは複雑度の比較的高いルールにおける結果を表している。

この結果からは,以下のような傾向を推察することができる。

前者は,実行制御系が作業を切り替えるのに一定の時間を要することを示唆している。後者は,ルール活性化に要される時間がルールの複雑度に依存することを示唆している。

Rubinstein らは,他の実験から大まかに言って以下のような傾向を割り出している。

これらの考察からは,人間が作業を行う際にその切り替えの頻度を下げることの重要さや,どうしても切り替えを避けることができない場合に注意を払うべき点などを知ることができる。例えば,自動車や飛行機の操縦においては,作業の切り替えによって生じるほんの少しの空白が,致命的な事故を引き起こす可能性がある。従って,その操縦に用いられる装置の設計が,ルールの複雑度を高めるようなものであったり,ゴールの明示を避けるようなものであったりしてはならない。なるべく実行制御系が素早く反応を起こせるようなものであることが求められるだろう。

またこの考察は,人間の「マルチタスキング」が根本的に非効率的であることを裏付けているとも考えられる。ある作業に少しの余裕があることを見つけた際に,その合間に他の作業を差し挟めば効率を高めることができると考えたことはないだろうか? しかし実際には,そのような試みはうまくいかないことが多い。ある程度の複雑さを持った作業を切り替える際,そこには無視できない量のコストが発生する。それがよほど容易なものでない限り,そのような「マルチタスキング」は総合的な効率低下を招く結果となるのではないか。

Avoiding Info-Mania

2006-10-14

着信通知は大麻より悪し

各種の通信技術は人々を常に情報へと接続することを可能とするが,これらの技術の濫用は労働者の知的能力を損なう危険性を孕んでいる ― Hewlett-Packard 社が 2005 年に行ったプレスリリースは,自社の技術が安易に濫用されることの危険性を,そのように指摘する。

情報へと常に接続されているということは,何らかの作業を行っている間にも,常に外部から情報が舞い込んでくる可能性があるということを意味する。作業へと注がれていた意識が,その舞い込んできた情報の方へと逸らされれば,それを元に戻すには一定のコストが要されることだろう。

ロンドン大学は Glenn Wilson 博士の行った実験によれば,電話のベルやメールの着信通知などに曝された環境においては,労働者の知能指数 (IQ) は 10 ポイントも低下するという。これは,大麻を服用した際に知能指数が 4 ポイント低下したとする別の実験結果と比較して,実に 2 倍以上の能力低下が発生していることを意味する。また,別の睡眠不足に関する実験においては, 10 ポイントの知能指数低下は一晩を「完徹」した場合に相当するという。

(残念ながら Wilson が行ったとされる実験に関して詳細な文献を見つけることはできなかった)

集中のための怠慢

Coding Horror の Jeff Atwood 氏は,作業に集中するためには故意の怠慢を行使する必要もあるとのアイデアを提示する。曰く,集中すべき時にはメールの着信通知をオフにせよ,インスタントメッセンジャーを切断せよ,と。

何らかの問題が与えられたとき,それを解決するための道筋は無数に考えられる。その無数の道筋を当てもなく彷徨うのではなく,解決へと邁進しようとするならば,それには何をすべきであるかを整理し把握しておくことが重要となる。しかしそれと同時に,何をすべきでないかを定めておくこともまた重要であろうと Atwood 氏は指摘する。情報への接続が解決に必要とされるものであれば,それを保つことも良い。しかし,それが必要でない場面に置かれているのであれば,故意にそれを切断し,怠慢を行使することもまた有益な戦略となるのではないか。

House Music Radio Shows

2006-10-18

Traxsource.com

Traxsource.com はハウスミュージック専門のダウンロード販売サイトである。ハウスミュージック専門レーベルである Soulfuric の関係者によって運営されており,良質かつ最先端の音楽を手軽に入手することができる(という触れ込みになっている)。もちろん,日本国内からの購入も問題無い。

Soulfuric のウェブサイトでは週に1回のペースで "Traxsource.com Radio Show" と呼ばれる番組がダウンロード配信されている。プロモーション目的のため音質は低め (64kbps) だが,たっぷり2時間のミックスから最新のリリースをチェックすることができる。トラックリストは同サイトにおいて公開されており, Traxsource.com 内の販売ページへのリンクも備えられている。お気に入りの曲を見つけたならば,そこから購入してみるのも面白い。

Shiroi Mayu

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Traxsource.com Radio Show の 9/14 の配信で流されていた Hideo Kobayashi の "Shiroi Mayu" が気に入ったので購入してみた。4曲まとめて $7.98 (約千円)という価格設定になっている。気だるげなボーカルと淑やかなアコースティックギターの音色が心地よい。

Progressive Soul

Progressive Soul は古典的な音楽専門ラジオチャンネルの体裁を採ったネットワークラジオサイトである。ダウンロード販売サイト Beatport やレコード通販サイト DanceRecords.com 等の提供によって運営されている。こちらも週に1回のペースでたっぷり2時間のミックスを配信している(やはり音質はあまり高くない)。こちらは podcast に対応しており,より手軽に最新の配信を楽しむことができるようになっている。

Vinny Troia

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Progressive Soul の 10/13 の配信で流されていた Vinny Troia の "Flow" が良かったので購入してみた。本来ならばスポンサーの Beatport から購入するのが筋かもしれないが, iTunes Music Store からの購入の方が安価だったため,こちらから購入することにした。トランス色の強いボーカル曲。下手をすれば紋切り型だが,独特の疾走感が気分を高揚させてくれる。

Count Sketch

2006-10-20

Moses Charikar, Kevin Chen, Martin Farach-Colton. Finding Frequent Items in Data Streams. In Proceeding of the 29th International Colloquium on Automata, Languages, and Programming, 2002.

問.データ列 S に含まれる要素のうち,最も出現頻度の高い k 個の要素の中から l 個の要素を選んで挙げよ。

データ列から出現頻度の高い要素を抽出する処理は,データが少ないうちは容易だが,データが膨大なものになると途端に難しくなる。例えば,ウェブ全体から最も出現頻度の高い単語を調べ出すにはどのようにすればよいだろうか? 全ての単語を真面目にカウントすると膨大な記憶領域が必要とされてしまう。だからと言って適当に「端折り」してしまっては精度が犠牲になる。前処理として複数回の走査を行うことを許容すれば,精度を保ちつつも記憶領域を節約することが可能になるが,今度は処理時間が倍増してしまう。

この論文において Moses らは Count Sketch と呼ばれるアルゴリズムを提示する。このアルゴリズムは,少ない記憶領域でも比較的高い精度を保つことができ,しかも1回の走査で処理を終えることができる。著者は大学に籍を置く研究者だが,過去に Google の研究グループに所属していた期間があり,この研究はその間になされたものとされている。実際にこのアルゴリズムは Sawzall 言語のアグリゲーターの一種として応用されている [Sawzall] 。

このアルゴリズムでは長さ b のカウンタ列を t 列用いる。

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そして,入力データ列 S 内の要素 q に関して,これを {1,...,b} のインデクスに変換するハッシュ関数 h1,...,ht を用意する。また, q を {-1,+1} に変換するハッシュ関数 s1,...,st も用意する。

次にデータの走査を行う。データ要素 q が入力されたとき, i ∈ {1,...,t} に関して, ihi(q) 番目のカウンターに si(q) を加えるという処理を行う。

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こうして累積されたカウンター列から任意の要素 q の出現頻度を評価するには, i 列 hi(q) 番目のカウンターに si(q) を乗じた値を収集し,それらの中間値(メディアン)を求めるという処理を行う。

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少々不思議な仕組みだが,このアルゴリズムによって比較的高い精度で出現頻度の評価を行うことができる。件の論文の後半部分においては,その精度の確率論的な解析が行われており,一定の精度を実現するために必要とされる記憶領域の大きさやハッシュ関数の特性について触れられている。

Gizmondo's Spectacular

2006-10-27

Randall Sullivan. Gizmondo's Spectacular Crack-up. Wired magazine, October 2006.

― かつて Gizmondo というゲーム機が存在したことを知っているだろうか?

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Gizmondo は Tiger Telematics 社およびその子会社 Gizmondo Europe 社によって開発された携帯ゲーム機である。標準で GPS とカメラを搭載し, GPRS および Bluetooth による無線通信に対応, MP3, MPEG4 を始めとする各種メディア形式の再生も可能,等々,流行りの機能を満載した最先端のガジェットとして世間の注目を集めた。しかし蓋を開けてみれば,対応ソフトは殆ど存在せず,価格は $400 と割高であり,しかも競合機種の中では最後発と,不利な条件ばかりを抱えた商品となってしまう。結局,市場に受け入れられることは無く,北米での発売からたった 3 ヶ月後の 2006 年 1 月には Gizmondo 社が倒産してしまうという異様な事態で幕を引くことになった。

フェラーリの大破

その翌月 ― 2006 年 2 月のこと,カリフォルニアのとあるハイウェイで,フェラーリ・エンツォが電柱にぶつかって真っ二つになるという奇妙な事故が発生した。エンツォは世界に 399 台しか存在しないという超高級車種であり,その価値は約1億円にも及ぶという。その車を運転していた男の名はステファン・エリクソン (Stephen Eriksson). スウェーデン人の実業家とされるこの人物は,つい数ヶ月前まで Gizmondo 社の取締役を勤めていた人物でもあった。

ここまでは,少し珍しい出来事ではあれど,特に事件性のある話ではない。多くの人々の反応は,金持ちの気まぐれで超高級車がオシャカになったことを揶揄する程度のものだった。

しかし,この出来事には不審な点が幾つか見受けられる。まず第一に,エリクソン自身は助手席に座っていたことを主張し,車を運転していた「ディートリッヒ」 (Dietrich) なる人物はどこかへ逃げてしまったと述べている点。即座にヘリを用いた捜索が行われたものの,それらしき人物が見つけられることは無かった。

第二に,取調べ中に国土安全保障 (homeland security) 職員を名乗る二人の人物が現れ,エリクソンとの即座の対話を要求してきたこと。エリクソン自身も対テロ任務チーム (anti-terrorism task force) に所属していることを示す印章を(頼みもしないのに)見せてきた。しかしどうにも,これらの人々の肩書きは不自然なもののように思われてならない。

第三に,エリクソン自身からアルコール反応が検出されたこと。最初は素面を装っていたが,保安官代理が不審を感じ呼気検査を行ってみたところ,州の規定を超える濃度のアルコールが検出された。

これらの不審な点にもかかわらず,保安官代理はエリクソンらの帰宅を許してしまった。彼はすぐにそのことを後悔することになる。翌日のこと,事故直後の現場においてエリクソンらに携帯電話を貸したとされる人物から,警察に電話があった。彼の車の座席の下から,誰のものとも知らぬピストルのマガジン(しかも全弾装填済み)が出てきたというのである。

何故そのようなものが座席の下から? 恐らくそれはエリクソンらのものであり,しかも,所持がバレると困るような事情があったに違いない。携帯電話を借りる隙を縫って座席下に放り込んだのだろう。

数日後,この事故がニュースになり世間に広まると,スコットランドのある銀行からロス警察に連絡が入る。曰く,件のエンツォはエリクソンのものではない ― 自分らがエリクソンに貸与したものである,と。そのすぐ後には,イギリスのある銀行からも連絡が入り,件のエンツォ以外にも黒のエンツォが存在しないだろうかと訊ねてきた。エリクソン宅を家宅捜索すると,確かにガレージには黒のエンツォが存在した。しかも,その隣にはメルセデス・ベンツ SLR が停められていた(これも後に別の銀行の所有物でであることが判明する)。

つまりエリクソンは総額4億円余りにも及ぶ超高級車3台を窃盗し,しかもそれらをヨーロッパからアメリカへと不法に持ち込んでいたことになる。

Gizmondo

9/11 後のアメリカにおいて,素人にこのような芸当を行うことができるはずがない。そこから導き出される答えは極めて単純明快だった ― エリクソンはプロの犯罪者である。かつてエリクソンはウプサラ・マフィア (Uppsala Mafia) と呼ばれる組織を率いていた人物であり,誘拐,詐欺,恐喝,強盗,麻薬販売,通貨偽造,その他種々の犯罪に手を染めていたのだという。

エリクソンは 1993 年に逮捕され,諸々の犯罪から計 10 年の禁固刑を言い渡された。しかし実際の刑期は 6 年余で終わり, 2000 年には釈放される。出所したエリクソンはカール・フリーア (Carl Freer) という名の詐欺師と手を組み,にわか IT 企業の重役へと変身することになる。

彼らは,これまた変わった経歴を持つ(特殊な宗教団体と関係がある)マイケル・カレンダー (Michael Carrender) という人物に取り込み, Tiger Telematics を立ち上げる。当初は GPS を利用した子供のトラッキングを行う機器を開発する予定だったが,実現が難しかったためか,これをゲーム機に転用する案を打ち出す。

この辺りからエリクソンらの行動には不審な点が見られ始める。 Gizmondo Europe を立ち上げた最初の年,カレンダーは給料の半分とボーナスを返上するという慎ましさを見せているにも関わらず,エリクソンらは報酬として 220 万ドルを受け取っている。同時期にフリーアの妻は「コンサルタント料」として約 17 万ドルの報酬を受け取っている。

その後の Gizmondo 社は,過剰なプロモーション活動や企業買収などに大量の資金を注ぎ込み,とにかく投資家の注目を集めることに腐心した。その結果, Tiger 社の株価は 2003 年末の 53 セントから 2005 年始めには 60 倍の 32.5 ドルにまで跳ね上がった。

その間,業績は無きに等しいにも関わらず,彼らは不相応に贅沢な振る舞いを繰り返している。例えば,女性モデル事務所 Iris の株式を買い集めたり,年間のホテル宿泊料の総計が 15 万ドルにも達したり,わざわざロンドンの一等地に社屋を構えたり,製品発表会では著名ミュージシャンを多数呼んだ上に高級シャンパンを無料で配ったり……枚挙すればきりが無い。

これは後に判明したことだが,エリクソンらはこの間にも自らの息の吹きかかった会社との間で不正取引を展開させている。例えば, Gizmondo 社はソフトウェア開発会社の Northern Lights 社に対して 350 万ドルを支払っているが,エリクソンとフリーアはこの会社の株式をほぼ 50% 所持している。また,ゲーム会社 Game Factory Publishing に対しては 400 万ドルを支払っているが,この会社はフリーアと極めて親しい人物が経営していた。容易に予想可能な結末だが,結局,この会社がゲームを発売することは無かった。

転機

2005 年 3 月にイギリスで発売された Gizmondo は,市場からは冷ややかな態度をもって迎えられることになる。同年 10 月に予定された北米での発売こそが本番とするエリクソンらは,そのためにロスへと移住するが,発売を目前にして突然,取締役を辞任する由をカレンダーに対して伝えている。その理由としては,スウェーデンのタブロイド誌 Aftonbladet がエリクソンらの素性をスクープした記事に言及したという。

その後のエリクソンらは,次なる標的へと行動を移すことになる。フリーアは元 Gizmondo 社の従業員を引き連れ Xeno Mobile と呼ばれる会社を立ち上げる。これはつまり, Gizmondo でやったことを携帯電話業界に舞台を移して繰り返そうという試みであったと考えられている。他方でエリクソンは,カリフォルニアの外れの町にある古ぼけたバス会社 San Gabriel Valley Transit Authority に近づき,社のバスにタダで監視カメラを設置する見返りに,自身を社の警備部署の代理部署長に就けるよう要求する。警備部署の役職を得ることができれば,銃器を購入するための手続きを簡略化することができる。「対テロ任務チーム」の印章も,「国土安全保障職員」を名乗る手下達も,この警備部署を経て手に入れたのだろうと考えられている。

エリクソンのフェラーリが大破するのは,このすぐ後のことである。酒を飲んだ状態でフェラーリの性能限界を試すというような無謀な行為に及ばなければ,特に取り沙汰されることも無く,このまま次の詐欺を成功させるところだったのかもしれない。しかし,この奇妙な事故を発端として,この人物の興味深くも罪深い歴史は解き明かされ,白日の下に晒されることになる。

KORG KAOSS PAD KP3

2006-10-31

Brian Eno, Recording Another Day On Earth. Sound On Sound magazine.

「KORG には KAOSS PAD がある。これは音を肉体的な制御の領域へと移すものだ。もし KAOSS PAD を用いたならば,私がやっているように,音を物理的な性質から扱い演奏することが可能になる。このパッドは非常に直感的だ。誰でも瞬く間に使い方を会得することができる。何をどうしているのかは即座に明らかとなり,そして即座にあなたを全く異なる次元へと運ぶことだろう。何故なら,あなたがいつもコンピューターを扱うとき,あなた自身の肉体をそのように用いることはないためだ。あなたは頭脳に集中しており,三百万年の進化の末に得られたその素晴らしい肉体が持つ技は見過ごされてしまっているのだ。」

KORG の KAOSS PAD は非常にユニークなエフェクターである。タッチパネルを利用した直感的なインタフェースと,独創的かつ過激なエフェクト群は,この製品に唯一無二のキャラクターを与えている。その楽器としての完成度の高さと表現の幅の広さは,世界中のミュージシャンから多くの支持を集めている。

KAOSS PAD KP3 は KAOSS PAD の3世代目に当たる製品であり,国内では先日 10/25 から販売が開始された。店頭価格は 34,000 円程度と意外に安く,そのためもあってか,現在はどこもほぼ品切れ状態に突入してしまっている。このクリスマスシーズンには,最も注目を集める製品のひとつとなるのではないかと思われる。

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KP3 がこれまでの KAOSS PAD と決定的に異なる点としては,タッチパネル部に LED によるイルミネーション機能を搭載したことが挙げられる。一見すると,本質的には音と全く関係の無い要素のようにも思われるが,上のブライアン・イーノの意見に倣うならば,視覚的フィードバックの存在するとしないとでは,その楽器が人間の扱う道具として操作者に及ぼす影響は大きく異なってくるように思われる……と,まあ,そのようなことはともかく,見た目の楽しさが存在することは,この手のガジェットを愛好する人々にとって重要な要素であることは間違いない。

次に目立つ点としては,サンプリング機能の強化が挙げられる。 KP2 では2トラックだったサンプラーは4トラックに増強され,スライス機能やリサンプリング機能が追加されている。これまでは即興的なルーパーとしての性質が強かったように思われるが,今回の増強によってまた新たな使用法の創出が刺激されるのではないだろうか。

人によっては重要になるかもしれない点として, PC との連携が強化されていることが挙げられる。 KP3 は本体に USB インタフェースを搭載しており,付属のソフトウェアを利用して様々な情報を送受信することが可能となっている。特に KP3 をサンプラー的に用いようとする人にとっては, PC 上でオーサリングしたサンプルデータを素早く KP3 本体に転送できることは,快適さを求める上で非常に重要な点となるに違いない。そのソフトウェアが手堅く作られている点も特筆に価する。

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最後に,肝心のエフェクトの内容について触れる。総プログラム数は KP2 の 100 種類から 128 種類に増やされているが,単にプログラムの追加が行われたわけではなく,全体的に再編成が行われている。個人的な印象としては,言わば「飛び道具」的な存在だったシンセ系のプログラムを中心に削減が行われており,代わりに実用性の高いエフェクト群が充実・増強されたように感じられる。

使用例

購入後2日間弄った結果を映像にまとめ, YouTube にアップロードした。

KORG KAOSS PAD KP3 (2)

KORG KAOSS PAD KP3

上の例では,リズムトラックを Electribe R で,シンセトラックを Synth1 で作成し,それらを無理矢理4トラックに落とし込んだうえで利用している。下の例では,手元にあった適当なサンプル集を利用している。