Radium Software
2007-01-20
日本では「カリンバ」 (kalimba) という名前で呼ばれることが多いけれど,一般的には「ムビラ」 (mbira) と呼ばれるらしい。 Wikipedia によれば,アフリカの民族楽器だったムビラを西洋風の音階に直して売り出す際に「カリンバ」というブランド名が与えられた,とのこと。「親指ピアノ」 (thumb piano) と呼ばれることもある。
このカリンバはヤマハ渋谷店で衝動買いしたもの。本当は KP3 のサンプラーを使って輪唱っぽい遊びをしてみようと思っていたのだけれど,カリンバは両手が塞がってしまうので,同時に機器の操作はできないということに後で気が付いた。結局,単にエフェクターで遊ぶだけの映像になってしまっている。そう言えば,ルーパーを使ったパフォーマンスでは,みんなフットスイッチを使ってるよね……。
2007-01-22
EMX のアルペジエイターは,標準の設定では,リボンコントローラーでゲートタイムの操作を,スライダーで音程の操作を,それぞれ行うようになっている。普通にアルペジエイターとして使うならこの設定でもいいんだけれど,旋律のようなものを鳴らそうとするなら,設定を逆にした方がやりやすい。スライダーを上へ入れっ放しにして,あとはリボンコントローラーに触れるだけで,好きな長さの音を出すことができる。
このアルペジエイターの使い方は,このビデオから学んだ。この方からは本当に多くのことを学んでいる。いくら感謝しても足りない。
アルペジエイターのスケール(音階)はペンタトニックが無難に使いやすい。基本的に何を鳴らしても「外れない」という安心感がある。ただし,安直に使うと妙に民謡っぽい(演歌っぽい?)味が出てしまうので注意が必要。今回の映像ではノリの悪さも相まって,嫌な感じの「民謡っぽさ」が出てしまっている。もう少し落ち着いた使い方をする努力が必要。
2007-01-24

Image from Fourmilab Website
昔,パソコンで光栄の「三國志」を遊んでいたときのこと,タイトル画面の後に「乱数の初期化をするから,少し待ってスペースキーを押せ」というような指示があったことを覚えている。わざわざそんな宣言をしなくても裏で勝手に初期化しておけばよいことなのだけれど,まあ,そう宣言しておくことで説得力を与えることができたんだと思う。当時小学生だった僕は,素直に少し待ってから,スペースキーをちょこんと押していたことを思い出す。
結局のところ,コンピューターの生み出す乱数はあくまでも「擬似」乱数であって,ひとたび初期値を与えれば――「三國志」の例ならスペースキーを押してしまえば,あとは決まった数列を正確に吐き出す生真面目な関数でしかない。その数列も適切にバラけてくれるとは限らなくて,関数のつくりによっては規則性が現れてしまうこともある。その辺りの特性はカイ二乗検定などによって調べることができる。
それじゃあ,本物の乱数を手に入れたい――誰にも予測することのできない,とことん出鱈目な数列を手に入れたい,と思ったら,どうすればいいんだろう? 恐らく最も確実で,なおかつカッコいいのは,放射性崩壊を利用する方法だろう。
放射性同位体が崩壊を起こすタイミングは完全なランダム性に支配されていて,それを予測することは誰にもできない。だから,そのタイミングを検出して乱数の生成に利用すれば,本当の意味でのランダム性を手に入れることができる。
スイスは Fourmilab のジョン・ウォーカー (John Walker) 氏は,セシウム 137 を放射線源として利用した乱数生成システム HotBits を構築した。セシウム 137 はガンマ線源としてよく用いられる放射性同位体で 30.23 年の半減期を持つ。このシステムでは Aware Electronics 社製のガイガー=ミュラー計数管を利用してセシウム 137 が崩壊を起こすタイミングを検出する。そして,隣接する崩壊の間隔を比較し,その結果を 0/1 のビット列として格納していく。氏はこの方式によって秒間約 100 バイトの乱数列を生成することができると述べている。
HotBits によって生成された「本物の乱数列」は Fourmilab のサーバー内に蓄積されていて,そのデータはウェブページを介して誰でも入手することができる。例えば,このページを開けばランダムな 32 ビット整数値が生成される。このページを開けば 64 バイトの乱数列が生成される。さらにこのページでは,「本物の乱数」を使ってパスワードを作ってもらうことまでできたりする。
The RetroPsychoKinesis Project
2007-01-26

Image from Schmidt's paper
一般的な擬似乱数ではない, HotBits のような「本物の乱数」が手に入ったならば,それを何に応用することができるだろう? これに対するウォーカー氏の答えは,とんでもなくユニークなものだった。氏は HotBits を使ってレトロ・サイコキネシスの実験を行うことができると考えたのだった。
レトロ・サイコキネシスとは,直訳すれば「逆行型念力」とでも言うべきもので,人間の精神の働きが過去の事象に対して影響を及ぼすという超常現象のことを指す。
サイコキネシス――「念力」と言うと,エイっと念じると時計の針がグルグル回るとか,そんなのを連想するかもしれないけれど,超心理学の分野ではもっと小さな事象――例えば,サイコロの出目に僅かな偏りが出るとか,そういった類のものを実験対象として扱う。前者は「マクロ PK」,後者は「マイクロ PK」と呼ばれ,区別して扱われる("PK" は PsychoKinesis の略)。
超心理学者ヘルムート・シュミット (Helmut Schmidt) 氏は,乱数発生器を利用したマイクロ PK の実験を 70 年代から 80 年代にかけて多数行っている。この乱数発生器には赤と緑のランプが接続されていて,五分五分の確率でどちらかが光るようになっている。この装置に対して被験者が「念」をかけると,確率に数パーセントの偏りが現れるのだという。まあつまり,マインドシーカーみたいなことを研究室レベルで行っていた,ということになるんだろうかな。
この時点でも既にかなりのトンデモ系なんだけれど,シュミット氏はさらにぶっ飛んだ実験を行っている。乱数発生器とランプの間に遅延装置を追加し,乱数の発生から試行までに 24 時間の遅延を設けるという改造を施した。すると,この装置でも前と同様に,被験者の介在による偏りが現れたのだという。これはつまり,試行から遡って 24 時間前に発生したはずの事象に対して,精神の働きが影響を及ぼしたということになる……なると言ったらなるんだって!
ウォーカー氏は HotBits を使えば,このレトロ・サイコキネシスの実験をネットワーク上で大規模に展開することができると考えた。実験のために用意されたアプレットは, HotBits サーバーに格納された乱数列によって動作が変化するようになっている。そして被験者はこのアプレットに対して念をかける。 HotBits は,擬似乱数のような決定的な数列ではなく,量子論的なランダム性を持つ「本物の乱数」だから,観察されるまでその結果を予想することは誰にもできない。もしレトロ・サイコキネシスが実在するならば,この乱数列にも偏りが現れることになるだろう――たとえそれが過去に生成されたものであるとしても。
この実験は 1996 年 5 月に開始され, 1997 年の 10 月に結果報告が行われた。当然の帰結というか,その報告内容に特筆すべき点は見当たらない。粛々と実験は進められ,淡々と報告はまとめられ,直截的な肯定も否定も行われることなく,ただ客観的な事実が提示されるのみに終始している。もっとも,冷静に読み進めれば,そこにレトロ・サイコキネシスの影響など存在しないことは明らかであると分かるような結果にはなっていのだけれども。
2007-01-30
それにしても,なぜジョン・ウォーカー氏は,レトロ・サイコキネシスの実験などという,ぶっ飛んだ試みを行おうとしたんだろう?
同プロジェクトのページを見れば分かるように,氏は超心理学に関して相当な知識を持ち合わせている。また,氏は同プロジェクトを立ち上げるにあたって,超心理学者ヘルムート・シュミット氏をはじめとする複数の専門家の「お墨付き」を得るという,周到な準備まで行っている。もしかしてウォーカー氏は「向こう側の人間」なんだろうかと,そんなことまで考えてしまう。
しかし Fourmilab の他のページを覗いてみれば分かるように,氏は計算機と自然科学の分野に関して非常に深い知見を持ち合わせている。氏が Autodesk 社の創立者の一人であることは,その確かさを裏付けるものと言えるかもしれない。また,疑似科学に対する批評眼も持ち合わせているところからすると,「向こう側の人間」ってこともなさそうに思える。
結局のところウォーカー氏の狙いとは,敢えて超心理学の土俵に上りながらも,その中で反証を成立させるという,巧妙な芸当をやってのけることにあったんじゃないかと思う。
超心理学者はこれまで,「山羊・羊効果」などという典型的なアドホック仮説を組み立ててまでして,反証を逃れようとしてきた。曰く,サイコキネシスはそれを信じる者の前でのみ再現する性質を持つがゆえ,懐疑論者が追試することはできないのだと言う。当然,経験科学の見地からすれば,こんな理屈は受け入れられないわけで,まともに取り扱おうとしても仕舞いには水掛け論に終わってしまう。
ウォーカー氏が行おうとしたのは,この越えがたい平行線を敢えてこちらから越えようということだったんだと思う。放射性乱数生成サーバーと,ウェブ上の実験アプレットを用いれば,懐疑論者の介在を排除しながらも,客観的で誤りの無いデータの収集を行い,しかもそれを世界的規模に展開するという,文句の付けようの無い環境を構築することができる。プロジェクトの説明に目を通せば,これが単なる懐疑論者の反証実験ではなく,超心理学者の意図に合致する実験なんだということが分かる。
結果として得られたデータは,レトロ・サイコキネシスは存在しない――少なくとも同種の実験では実証のしようが無い,と結論付けるに足るものだった。実際に Eckhard Etzold 氏は,サイコキネシスの科学的な実証が不可能であることを述べる中で,ウォーカー氏の実験データを引用していたりする。
2007-01-31
ところで,「超心理学」 (parapsychology) って,いったい何なんだろう? 簡潔に答えるなら,「超能力について研究する学問」ということになる。その詳しい内容については,明治大学は石川幹人教授の「超心理学講座」が参考になる。
ひとまず,超能力の類は実在しないものと仮定しておこう。でも,超心理学者と呼ばれる人たちは,人間にはある種の超能力が備わっていると考えた――それはなぜか? また彼らは,その超能力の実態を解明すべく様々な議論を行ってきた――どのような議論を? 石川教授の資料は,この2点を簡潔に説明してくれる。
併せて "The Skeptic's Dictionary" にも目を通しておくとよいかもしれない。
はたして,超心理学は科学と呼べるものなんだろうか? この疑問に関しては Eckhard Etzold 氏の論文 "Does psi exist and can we prove it? Belief and disbelief in psychokinesis research" が参考になる。
結局のところ超心理学は,言わば哲学的な探求の末に,科学と呼ぶために必要な条件を自ら放棄してしまっているように思われる。例えば,ウォルター・フォン・ラカドウ (Walter von Lucadou) の提唱する MPI (The Model of Pragmatic Information) においては「サイ現象を科学的にとらえる行為自体がサイ現象を消失させる」という奇妙な理論が組み立てられている。石川教授の記述を引用すると,次のようなものになる。
端的に言えば,信頼性のある確実で安定したシステムは(すなわちシステムが既知になってしまうと)PSIは起きず,常に新しい挑戦をする自律的なシステムであると,PSIが起きるのである。科学的解明とは,解明するとき(すなわち創造的発見のとき)にはPSIが起きるが,解明された後はPSIが起きにくくなると言えるだろう。科学の発展は,PSIをますます「とらえにくく」しているのだろうか。